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火男
吉来駿作 (著)
朝日新聞出版 (2013/12/6) 1,600円(税抜)
中世古河城を舞台にした歴史小説です。絵図や史料が多い近世と異なり、中世の古河は手がかりが少なくて、分からないことがたくさん。この難しい時代を相手にしながらも、筆者は巧みに飽きのこないスリリングな物語を紡ぎ出します。
物語の舞台は室町時代、古河公方の登場直前。【結城合戦】のなかで生起した古河城攻防戦を描いたものです。ところで史実の結城合戦は、古河公方誕生の背景を知る際にも、重要な事件でした。
建武3年(1336)、足利尊氏は京都に室町幕府を開きましたが、鎌倉にも鎌倉府を置き、東国統治をまかせました。権力者が二人いる状態は不安定になりがち。時代が下るにつれて、京都の将軍と鎌倉公方との関係が悪化していきます。永享10年(1438)、ついに将軍・足利義教は、鎌倉公方・足利持氏と戦火を交え、持氏を滅ぼします(永享の乱)。乱の後、鎌倉公方に味方した関東武士たちは、室町幕府と幕府側の関東管領・上杉氏の圧力のもとで不遇をかこちました。 そして永享12年(1440)、結城氏朝ら関東武士たちは持氏の遺児、春王丸・安王丸を奉じ、2万人の武士とともに結城城に立てこもり、室町幕府に対抗。これが結城合戦です。
この事件は、関東武士が結集するとき、鎌倉公方が中心にあることを象徴するものでした。だからこそ、一度は滅びた鎌倉府が足利成氏により再興され、享徳の乱で鎌倉から古河に移ったのちも、古河公方・古河府は戦国時代の中心のひとつであり続けます。
結城合戦のとき、古河城の野田右馬助は結城方につきます。野田氏は代々、鎌倉公方の家臣でした。一方で、幕府は10万人もの大軍を動員し、結城城を攻めます。しかし堅固な城は簡単には落ちません。1年近くの長期戦となりました。動員された武士の中には、鎌倉公方に心を寄せるものも多く、春王丸・安王丸に刃を向けることをためらう雰囲気もあったようです。
結城城が陥落すると、幕府軍は古河城を次の標的にします。いよいよ物語が始まります。主人公は「ひよっとこ」に似た特異な面相のため、人々にさげすまれながらも、火薬を扱う特殊な技術を持つ放浪者。古河にきたとき、籠城戦に参加することになり、心を通わせた80余人の城兵を率いて、鎌倉の関東管領・上杉氏が率いる幕府軍10万人を相手に戦うことになりました。絶体絶命の状況の中、主人公は巧みな籠城戦をしかけていきます。
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