湿地転生の記(2014 Facebook記事を修正)

湿地転生の記 風景学の挑戦
中村良夫(著)
岩波書店(2007/2/22) 2,500円(税抜)

 中村良夫先生は東京工業大学名誉教授で、「風景工学」を専門とし、古河総合公園(現在は古河公方公園)の設計・企画に携わりました。この本には古河総合公園、特に御所沼の復元について、先生の経験と思いが記されています。

 戦時中、少年だった先生は疎開のため古河に移り住み、まちのなかの水辺で10年ほど暮らしました。 当時、渡良瀬川から台町交差点近くに伸びた谷戸の周辺です。第二の故郷・古河のまちの歴史が刻まれた「水辺の風景」が失われていくことを惜しみ、御所沼の復元に取り組まれます。ご存知の通り、総合公園にある御所沼は、かつて古河公方館があったことから、このように呼ばれます。現代は古河公方の時代より小さな沼ですが、先生が意図した水辺の風景はよく再現されています。

 本書の中では、「古河公方の城と居館は、こうして水に囲まれた水網の城・・・迷路のような谷戸の奥の秘所」(P.59)、「古河公方の大地の過半は、大河のほとりの低湿地」(P.69)などと、古河公方は水辺の風景とともにあったことが説かれます。そして、「わたしが自分の庭のように遊んだ谷戸は葬られた。親しい谷戸は二度と戻って来はしない」と現状を嘆きつつも、「風景の生滅無常を、そのままうけいれるしかない・・・自然と人間との愛憎・・・記憶の集積・・・、矛盾そのものを、景観デザインの基底に据える」(P.117-118)と、 総合公園のプランを練り上げていきます。

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