川戸台遺跡ノート(2015 Facebook記事を修正)

【国内最大級!?】
 新聞記事にあった「国内最大級」について、数値の裏付けが気になりました。そこで、既に日本最大級と認められている福島県南相馬市の金沢地区製鉄遺跡郡と数値で比較してみました。
 発掘面積: 川戸台遺跡 400 平方メートル/金沢地区製鉄遺跡郡 224,960 平方メートル
 出土した製鉄炉(製錬・溶解): 川戸台3基/金沢123基
 鍛冶炉: 川戸台1基/金沢20基
 木炭窯: 川戸台 1基/金沢152基
 出土した遺物全体の量: 川戸台 4,500 kg/金沢は不明
 数字だけを比較すると、確かに単位面積当たりの遺構数は川戸台が上回っているかも。しかし、ここまでサンプリング規模(発掘面積)に差があると、単純な密度の比較に意味があるのでしょうか? バラツキの影響が大きくなります。専門家によれば、確かに「鋳型を中心とする鋳造関連遺物の包蔵量や、想定される遺構の密度などが例のない規模に達する」とされています。しかし遺跡の密度だけでなく、全体の規模が事実で裏付けられれば、遺跡の価値が大幅にアップすることは間違いありません。金沢と同規模の発掘調査は無理としても、せめて遺跡の分布状況をおおまかには知りたいもの。今はトレンチ1本の発掘調査だけで1次元。せめてトレンチ数本分を増やして 2次元の面的データが欲しいです。

【まだ見つかっていないもの】
 数値以外も比較できます。金沢地区製鉄遺跡郡を調べると、川戸台遺跡でまだ見つかっていないものが気になってきます。
 ひとつは物流。金沢では、出土した墨書土器から官製厩舎があったこと、さらに 2km 離れた泉廃寺跡に「津」が見つかったことから、製造された鉄製品を馬と舟で運んだと考えられています。渡良瀬川に近い川戸台遺跡でも、「津」の跡がどこかにありそうです。
 もうひとつは人。金沢では、竪穴状居跡139軒、墳墓14基が見つかりました。大規模な工房があれば、そこに働く人の生活の痕跡があります。どんな人が働いていたか? 人数は? 働き方は?特に古代の製鉄に深く関わったとされる渡来人との関係は? 知りたいことはたくさんあります。
 他には製鉄炉の構造。金沢の竪型炉や踏みふいご付き箱型炉のような構造は、川戸台でも確認できるでしょうか?そして、川戸台は古代製鉄技術のなかで、どのレベルに位置づけられるでしょうか?

 川戸台は、謎が多い古代の古河を映す宝の山です。これをどうやって掘り出すかが課題です。

参考文献
 飯村 均 『律令国家の対蝦夷政策 相馬の製鉄遺跡郡』、新泉社、2005年
 古河歴史シンポジウム実行委員会編 『古河の歴史を歩く 古代・中世史に学ぶ』、高志書院、2012年
 『古河市埋蔵文化財調査報告書第10集 川戸台遺跡』、古河市、2012年

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